お客様からのお悩み
自宅の外壁の塗装が剥げていて、かねてより気になっていたので、先日ついに外壁塗装工事を塗装業者に依頼して、私の家の外壁塗装工事をしてもらうことになりました。
ところが、実際に塗装工事の見積もりや契約交渉をしてみると、
「大丈夫ですよ、お任せください!」
「そうっすねー」
「その時はその時でご相談しましょ」
などと言って、あまりこちらの話を聞いておらず、こちらが説明している要望事項なども細かく汲んでくれる様子がなくて、不安になってきました。
そこで私は、工事業者が用意した契約書とは別に、念書を取っておこうと思ったので、自分で念書を作り「工事後に塗装がすぐ剥がれた場合は対応してもらう」、「塗装をし直す際の費用は無償で行う」などの内容を盛り込んで、念書を書いてもらいました。
私が作った念書には、効果がありますか。またこの念書には、法的な強制力がありますか?
外壁塗装で契約を交わす際の、「念書」について、小栗総合法律事務所の小栗先生に聞いてみました。外壁塗装の契約や念書についてお悩みのあなたのお力になれれば嬉しいです。
ご質問のご回答
お家の外壁塗装をするうえで工事前に不安に思った場合、契約書にサインをしないことが一番重要です。
今回のご相談は、契約書にサインはしたけれど、あなたが不安に思ったことや今後対応してほしいということについて念書を取ったというお話ですね。
ここでは、念書の効果について一緒に考えていきたいと思います。
念書とは?
念書とは契約書の一種で、約束事を文書にしたものです。
一般的に「念書」というと、契約を交わす両者が文書に署名捺印をして1通ずつ保管するのではなく、どちらかだけが署名捺印し、もう一方に渡すというパターンが多いようですが、もちろん2通作ってお互いに署名捺印し、両者それぞれが保管していても全く問題ありません。
世の中には、
- 契約書
- 念書
- 合意書
- 覚書 …etc
このように様々な名称で文書が取り交わされていますが、契約とは契約を交わす人の合意であり、内容を忘れないようにしたり、契約後のトラブルに備えて、約束事を書面化しています。
この書面化したものを「契約書」と言ったり「念書」と言ったりするのであって、両者の合意や約束事が文書化されたものである限り、どんな名称であっても、それは契約書としての効果を持ちます。
契約書の効果とは?
契約書を作る目的は、両者が合意した内容を明確にして、契約後も合意内容を目に見える形で残すためです。
一般的に、商品やサービスにお金を払う場合、あなたと売り手の間ではっきりと口頭で意思表示をするのは
「これ(商品)をください」
「代金は○○円です」
このようなもので、商品に不備があったらどうするか、商品が運搬中に壊れた場合の修理対応はどうするかといった、細かな点まであなたと売り手との間で実際に話し合うことはあまりないですよね。
しかし、取引がスムーズに進む場合ばかりとは限らないので、こうした不測の事態に、契約を交わした両者の内どちらが、どのように責任を取るかを決めておくことはとても大切なことです。
その為、契約書を用意して、細かい部分まで契約を交わす両者の合意を詰めていきます。
また、両者それぞれが死亡したなどの事情によって、契約を交わした人以外の人(たとえば相続人など)に対して合意内容を明らかにすることができないこともあります。
そのような場合に備えて合意内容を文書化しておき、誰が見てもわかるように将来にわたってどんな合意をしたのかを残すことが必要なんです。
では、外壁塗装をするうえで契約書があり、契約を交わした両者の合意内容が明らかになったところで、あなたは塗装業者さんに対して、契約書の内容に沿って取引を行うよう強制できるのでしょうか。
たとえば、絵画を1000万円で購入して受け取る、という契約をした買主が、売主に代金を支払ったにもかかわらず、絵画を一向に引き渡してもらえない場合、売主の元に行って絵画を持ち出すことは許されるのでしょうか。
答えはNoで、契約書の効果というのは、契約書を作った時に両者の間でどのような合意をしたのかを証明するものであって、自力で合意の実現をすることは許されていません。
絵画の例で言うと、買主は裁判を起こし、契約書を証拠として「絵画を1000万で買い、絵画を受け取るという合意をしたこと」を主張して証明する必要があります。
裁判所に買主の主張が認められれば、買主は勝訴判決をもって強制執行の申立てをして、強制執行の結果、絵画を受け取ることになる、というのが原則です。
このように、自分だけの力で解決することは原則として認められておらず、契約書を作っても、その通りの内容を強制的に実現するには、裁判をしたり強制執行をしたりする必要があるんです。
契約書のルールは何かあるの?
契約書には、以下の内容が記載されているのが一般的です。
- 作成した日時
- 約束事を交わした人の住所
- 名前の署名
- 当事者の押印
ただ、自筆で名前を記入する「署名」を、ゴム印や代筆となる「記名」で行うことも多いですし、場合によっては押印がなく署名だけであることもあります。
しかし、署名と押印の両方がある場合と比べると証明力が低くなる可能性が高いので、作成する場合には、契約を交わす相手の署名押印を求めるようにしてください。
それ以外には、文書のタイトルや文字サイズ、書き方なども原則として自由です。
しかし、契約書の目的である「誰が見てもわかるようにどのような合意をしたのかを残す」ことや、裁判で合意内容の証明に必要になることを考えると、合意内容を法的に構成し、誰が見てもわかるような言葉に変えるということが、とても大切になってきます。
これを、法律に関する知識のない方が行おうとするのはとても難しいので、契約書を作りたいと思った場合は、専門家である弁護士に相談するのがオススメです。
ご相談のケースでは
念書を作ったからと言って、塗装業者に対して塗装工事を強要することは、念書の法的な効果としては認められません。
しかし、ここまでお話ししたように、念書を作成したうえで、塗り直しを依頼する時に工事業者に提示すれば、素直に塗り直しをしてくれる効果が期待できます。
もし、塗装業者が塗り直しをしてくれない場合は裁判を起こし、念書を証拠にして、塗り直しを求める権利があなたにあることを、主張したり立証していくことになるでしょう。
小栗先生の紹介ページはこちら
今回、外壁塗装の念書についてご回答いただいた、小栗先生の詳細は下記ページで確認できます。
今ご覧いただいている記事以外にも、外壁塗装で起きるトラブルについて記事を監修いただいているので、そちらも下記ページからご確認いただければと思います。
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