執筆者
多胡安那(気象予報士・熱中症予防管理者(指導員))
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「横浜市」と聞いて、皆さんは何を思い浮かべるでしょうか?
横浜中華街やみなとみらい、夜景、横浜スタジアムなどいろいろありますが、港町というイメージをお持ちの方も多いと思います。
山下公園や赤レンガ倉庫といった沿岸エリアに出かければ、いつでも心地良い海風を感じることができ、氷川丸の上をカモメが飛ぶ様子はお馴染みの光景です。
そんな横浜市は神奈川県最大の市で、本州のほぼ真ん中に位置しています。
市の東側は東京湾に面しており、中区や鶴見区、磯子区や金沢区などは、海風の入りやすい地形となっています。
横浜市は季節変化が大きく、冬と夏との気温差が大きい所です。
気温の季節変化を横浜市の気象観測を行なっている中区で比較してみると、平均気温はもっとも高い8月で26.7℃、最も低い1月は5.9℃で、その差は20℃以上と大きく開きます。
また、横浜市の年間降水量は1688.6ミリで、特に雨が多いのは梅雨と秋雨、台風シーズン。
月の合計降水量が多い月は6月と9月、10月で、その3か月の合計は、年間降水量の4割近くをしめています。
横浜市における夏の暑さは、名古屋以西の都市と比べると少し控えめです。
特に海風が入りやすい中区などの沿岸エリアほど暑さは抑えられますが、そのぶん、湿った空気が入りやすい特徴があります。
一方で、瀬谷区や旭区といった内陸エリアは気温が上がりやすく、沿岸エリアよりは暑さが厳しくなります。
冬は西高東低の気圧配置になることが多く、乾燥した晴れの日が多いですが、ひとたび南岸に低気圧がすすんでくると雪が降ります。
横浜市の年間の雪日数は平年で9.7日で、月別にみると2月が最多。
積雪する日は多くはないものの、積もるときには10センチ以上積もることも。
特に沿岸部エリアでは、水分を多く含む湿った重い雪が降りやすいため、建物への着雪や路面の凍結も起きやすくなります。
安全な塗装作業のカギは風
横浜市は中区などの沿岸部ほど、風の影響を考える必要があります。
特に台風や低気圧が近づくときは風が強まりやすく、それらが発達すれば、塗装作業に支障をきたす風が吹くおそれもでてきます。
たとえば、平均風速が15メートル以上20メートルの強い風が吹くと、屋根瓦がはがれてしまったり、雨戸やシャッターが揺れるようになります。
平均風速が20メートル以上30メートル未満の非常に強い風が吹きだすと、人は何かにつかまっていないと立っていることができなくなります。
また、飛来物によって怪我をしてしまうおそれもあり、固定されていないプレハブ小屋が動いてしまったり、転倒することもあります。
さらに平均風速が30メートルから40メートルくらいになってくると、走行中のトラックが横転するレベルの風となるため、屋外での行動は極めて危険な状況となってきます。
ここまでの風が吹くと、養生が不十分な仮説足場は崩落し、外装材が広範囲にわたって飛散、住家で倒壊してしまうものや、鉄骨建造物で変形してしまうものもでてきます。
2000年以降、横浜市中区でもっとも強い風が吹いたのは、2004年12月5日。
急速に発達した低気圧が原因で、過去3番目の強さとなる最大瞬間風速43.4m/sの猛烈な風を観測。
また、同じ2004年の10月9日には最大瞬間風速39.9m/sの西風が吹き、観測史上8番目に強い風を記録しました。
たとえ、作業ができるくらいの風であったとしても、塗装作業中に急に強風や突風に見舞われてしまうと、塗料が風で飛んでしまい、トラブルになるケースもあります。
風が強まるおそれがある日に塗装作業をする際は、周りへの十分な配慮や注意が必要となってきます。
夏の塗装作業は天気の急変に注意
横浜市の月別降水量は、多い順に9月、10月、6月と続きますが、それに次いで多いのが7月と8月といった夏です。
平年の7月と8月の月降水量はいずれも160ミリを超え、大雨被害をもたらすことも少なくありません。
7月上旬から中旬にかけては梅雨末期の大雨になりやすく、7月下旬から8月にかけては連日のように、夕立やゲリラ雷雨が起きやすくなります。
夏場は梅雨のように連日、雨が続くということはなくても、短い時間にピンポイントで激しく降るような降り方をするため、急に道路が冠水し、低地に浸水するような状況になることも。
また、晴れていても天気が急変するのが、この時期の特徴でもあります。
ついさっきまで晴れていたのに、突如モクモクとしたあやしい雲がやってきて、あっという間に大雨を降らせる。
そんな晴天の霹靂のようなことが多く起きる時期なのです。
特に横浜市は、海からの風によって湿った空気が入りやすい地形。
湿った空気は雨雲の素となりますので、夏は雨雲を発達される原因がたくさんあることになります。
また、気温上昇によって大気の状態が不安定になるため、より雨雲が発生しやすくなります。
活発な雨雲が横浜市上空にかかってくれば、災害につながるような大雨になることも少なくありません。
外壁塗装は屋外での作業となるため、雨が降れば中止しなくてはならず、スケジュール通りに作業を進めていくことは厳しいでしょう。
夕立や急なにわか雨の可能性については、毎日の天気予報でもお伝えしているため、そのあたりもチェックしながら作業スケジュールを組むようにしたい所です。
雷や竜巻も危険 塗装作業は晴れているうちに切り上げて
さらに、夏場の激しい雨につきものなのが、雷や突風です。
横浜市の年間の雷日数は12.6日ですが、7月から9月にかけてが特に多い時季となります。
雷をもたらす積乱雲が発達すると、激しい雨だけでなく、落雷や激しい突風のおそれがでてきます。
「急に真っ黒な雲が近づいてくる、ゴロゴロと雷の音が聞こえてくる、急に冷たい風が吹き出すなどの現象が起きはじめたら、積乱雲が近づいているサイン。
そのような兆しを感じたら、ただちに塗装作業を中止し、頑丈な建物に避難するようにします。
そして、そのような状況になることが予想されるときは、晴れているうちに早めに作業を切り上げることも考えた方がいいかもしれません。
また、激しい雨や落雷だけでなく、竜巻にも注意する必要があります。
遭遇する機会は多くはありませんが、竜巻は民家の屋根をも吹き飛ばしてしまうくらい大きな被害をもたらす危険な現象です。
竜巻は発達した積乱雲に伴って発生し、大気中の渦巻きが地上に達しているものですが、いつ、どこで発生するか予測が困難な気象現象のひとつです。
発達した積乱雲が近づいている時、竜巻などの激しい突風が起きるおそれがある時には、気象庁から雷注意報や竜巻注意情報が発表されますので、それらも活用して身の安全を守るようにしていただきたいです。
そして、もし、竜巻に遭遇してしまった場合には頑丈な建物に避難し、そのような建物がない場合には、飛散物から身を守れるような物陰に入って身を小さくして頭を守るようにします。
また、倒壊する可能性がある電柱、太い樹木には決して近づかず、物置、車庫、プレハブ(仮設建物)などに避難することもしてはいけません。
夏場は晴れていても天気が急変することはしょっちゅうありますので、空模様の変化に注意しながら作業を進める必要があります。
山沿いだけでなく、横浜市のような平野部でも激しい雨や雷雨、竜巻などの突風が起きやすい季節となりますので、塗装作業は天気の急変に注意が必要です。
梅雨~夏は高温多湿 塗装が乾きにくい
外壁塗装は塗料を乾燥させて塗膜(とまく)といった塗料の薄い層を基本、3回塗りますが、その塗料の乾燥には時間がかかります。
しかも湿度が85%以上になると、なかなか乾かないため、塗装を順調に進めることができなくなります。
横浜市の年間の平均湿度は67%ですが、梅雨から夏にかけては特に高温多湿。
年間でもっとも湿度が高いのは6月と7月で、いずれも平均湿度が78%と高く、ジメジメ、ムシムシとした日が多くなります。
梅雨のシーズンは当然、雨の日が多くなるため、ただでさえ塗装作業が滞りがちです。
雨の中で塗装作業をしてしまうと、しっかり乾燥されないまま塗り重ねていくことになり、塗料が定着しないからです。
そのような状況で塗装を進めてしまうと、しっかり塗れていないので、はがれやすくなるおそれもあります。
たとえ雨が降らなくても、湿度が高いと乾燥が不十分となり、作業をスムーズに進めることは難しくなるでしょう。
スケジュールの都合上、この時季に塗装を行なう際は、梅雨の晴れ間を狙うなど、なるべく湿度が低い日を選びたいところです。
外壁塗装に最適な月は12月
外壁塗装の作業は雨と湿気が点滴なので、作業に適しているのは、「よく晴れて空気が乾燥している時期」となります。
また、気温が5℃以下になると塗料が渇きにくくなるため、気温があまり低すぎないというのもポイント。
つまりは、乾燥した晴れの日が多く、冷え込みがそれほど強まらない時季が、外壁塗装にベストなシーズンとなります。
その条件をもとに横浜市の塗装ベストシーズンを考えると、12月がもっとも適しているといえます。
横浜市の月別の降水量をみると、もっとも降水量が少ないのは12月で、月降水量は54.8ミリ。
最も降水量が多い9月とくらべると、4分の1以下とひときわ雨が少ない月です。
また、12月は西高東低の冬型の気圧配置になりやすく、横浜市など関東地方は冬晴れの日が多くなります。
冬型の気圧配置の時は北風が乾燥した空気をつれてくるため、湿度が低く、塗装が乾燥しやすくなります。
夏場のような天気の急変も起きにくいため、塗装の行程をスムーズに進めることができるでしょう。
冬型の気圧配置が強まる日など、日によっては北風が強まる日もありますが、そのような日を避ければ、12月は塗装作業に適している月といえます。
内陸エリアは冬の冷え込みが強い
横浜市はヒートアイランド現象により年々、気温は上昇傾向です。
海風が入る沿岸部でも、涼しさをかき消すくらいの暑さになる日が増えてきています。
特に全国的に記録的な暑さとなった今年は、横浜市でも35℃以上の猛暑日が観測され、厳しい暑さとなりました。
また、ヒートアイランド現象による気温上昇の傾向は、夏場の最高気温よりも冬の最低気温に顕著に現れています。
横浜地方気象台がある横浜市中区では、近年、氷点下まで冷え込むことは少なく、冬日(最低気温が0度未満の日)は、年に数日あるかないかといった程度です。
全国的にいつもよりも厳冬となった昨シーズンの冬でも、横浜市中区で0℃を下回ったのは7日だけでした。
ただ、同じ横浜市でも旭区や瀬谷区などの内陸エリアでは、ヒートアイランドの影響が小さいことから、同じ横浜市内でも気温は低めとなります。
さらに沿岸部と比べて風が弱いため、放射冷却が強まりやすく、より冷えやすいエリアといえます。
特に冬の朝晩は冷え込みが強く、中区と比べると、最低気温は5℃くらい低めになり、氷点下5℃を下回るような日も。
中区の気温が8℃くらいであっても、瀬谷区や旭区では5℃を下回ることになりますから、塗装の乾燥作業がスムーズに行えなくなってきます。
塗装作業をするエリアが沿岸部か内陸部かによって気温は変わってきますので、そのあたりも考慮しながら作業スケジュールを考える必要があります。
台風は上陸しなくても大雨・暴風は頻発
過去、横浜市に台風が上陸したことはありませんが、台風の接近に伴って大雨になったり、暴風が吹き荒れることはよくあります。
特に台風が静岡県や愛知県などの東海地方に上陸した際は、横浜市が台風の進行方向東側に入るため、大雨や暴風の影響を受けやすくなります。
台風の東側というのは、反時計回りに吹く台風特有の風と移動方向が同じになるため、台風の西側よりも風が強くなりやすく、また、雨雲の素となる湿った空気が入りやすくなるため、雨量が多くなります。
つまり、台風が横浜市に上陸したり、最接近しなくても、台風の東側に入るコースで台風が進む場合は、大雨や暴風に警戒が必要だということです。
台風が静岡県や愛知県に接近、上陸することはよくあるため、その場合は横浜市でも雨や風の影響が大きくなります。
特に中区など海に面したエリアは風が強くなりやすく、塗装作業にも影響を及ぼします。
2011年9月に発生した台風15号が静岡県浜松市に上陸した時には、横浜市で最大瞬間風速35.3メートルを観測。強風にあおられて転倒したり、停電も発生しました。
雨や強い風が点滴となる外壁塗装の作業は、台風が遠い時でも油断はできません。
特に台風が横浜市よりも西側を進む場合は、塗装スケジュールを考え直すなど、大雨や暴風への備えを早めにしなくてはなりません。
大雨で建物の劣化が進む 定期的な塗り替えが必要
度重なる大雨被害をうけると、当然、建物の劣化が早まります。
強い雨や風に見舞われることで、水漏れなどが起きやすくなっている可能性があります。
特に古い建物を取り扱う場合は、これまでの劣化具合や弱っている部分を十分に確認する必要があります。
外壁塗装をする際は、まず建物の状況をみて、建物内に雨などの水を通さない状態を保てているかを確認する必要があります。
その状況を保てていなかったり、今後、悪化する可能性があると判断した場合には、外壁塗装をして建物を保護しなくてはなりません。
その場合にも塗料を剥がれないように、空気が乾いた晴れの日に作業する必要があります。
まとめ
横浜の良さである心地より海風は、時として、大雨をもたらす雨雲の素となります。
また、海風が連れてくる湿った空気は湿度をあげるため、外壁塗装の作業にとっては、いささか厄介な存在かもしれません。
ですが、それは主に梅雨から夏にかけてのこと。
冬から春先にかけては晴れて空気が乾燥するため、外壁塗装の作業はしやすくなります。
塗った塗料がはがれてしまうリスクも、冬から春先にかけては低くなりますので、この時季に作業スケジュールを組むといいでしょう。
執筆者
多胡安那(気象予報士・熱中症予防管理者(指導員))
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